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変異型CJDの二次感染
2012年、英国において1年間に変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(変異型CJD)で亡くなられた方の数が1990年代の流行以来初めてゼロになりました(文献1)。このデータは変異型CJDの大きな流行が終息したことを示しています。ちなみに変異型CJDは牛海綿状脳症(BSE)がヒトに伝播して起きる病気ですが、BSEの発生頭数も同様にわずか数頭のみとなっています(文献2)。

しかし、変異型CJDの流行は本当にもう終わったのでしょうか。2004年に報告された英国での大規模な虫垂・扁桃組織の調査では1万2674検体の中から3例で異常型プリオン蛋白の蓄積がみつかっています(文献3)。最近おこなわれた、より後年に採取された虫垂組織の調査でも3万2441検体の中から16例で異常型プリオン蛋白がみつかりました(文献4,5)。これらの中にはすでに変異型CJDを発症している患者さんからの検体は含まれていません。4000~2000人に1人はリンパ性組織に異常型プリオン蛋白が蓄積しているというこれらのデータは何を意味しているのでしょうか。

プリオン蛋白遺伝子のコドン129にはメチオニン(M)とバリン(V)の正常多型がありますが、これまでに発症が報告されている変異型CJDの患者さんは全員メチオニンホモ接合(M/M)です。しかし、上記の調査でみつかった陽性例にはバリンホモ接合(V/V)の割合が多いことが分かっています。M/VあるいはV/Vの遺伝子型の人が変異型CJDに罹るとM/Mの人よりも長い時間をかけて病気が進行するのかもしれません。そのため現時点では、脳に侵入する前にリンパ性組織でのみ異常型プリオン蛋白が増幅しているという可能性は考えられます。もしそうだとすると今後、M/VやV/Vの遺伝子型の人における変異型CJDの発症が増えてくるものと予想されます。

一方、異なる動物種からの異常型プリオン蛋白の感染の際には、脳よりも末梢のリンパ性組織に異常型プリオン蛋白が蓄積しやすいという報告もされています(文献6)。異常型プリオン蛋白がリンパ性組織にのみとどまり、何の症状も引き起こさないのであれば問題がないように思われるかもしれません。しかし、ここに新たな問題があります。輸血などによる変異型CJDの二次感染です。これまでに、後に変異型CJDであることが判明した人の血液から作られた血液製剤あるいは血漿分画製剤を投与され、変異型CJDで亡くなられた方が3名(いずれもコドン129M/M)、変異型CJDは発症しなかったもののリンパ性組織に異常型プリオン蛋白が蓄積していた方が2名(いずれもコドン129M/V)、同じ血液製剤あるいは血漿分画製剤を投与されたがまだ生存されている方は数十名いると報告されています(文献7-11)。これらの報告は輸血などによって変異型CJDが伝播される危険性を示しています。これらの報告で感染源になったのは後に変異型CJDであることが判明したM/Mの遺伝子型の患者さんの血液ですが、上記の調査でリンパ性組織に異常型プリオン蛋白がみつかったM/VやV/Vの遺伝子型の人の血液も発症前から感染性をもつ可能性は考えられます。しかも、M/VやV/Vの遺伝子型の人はM/Mの遺伝子型と比べ発症までの期間が長いとすると、変異型CJDと気づかれるまでの長い間にわたって二次感染を拡大させ続ける恐れがあります。現在、英国では1980年以降に輸血を受けたことのある人の献血を禁止しており、輸血用血液製剤には白血球除去処理をおこない、また自国の血液から血漿分画製剤を作ることも禁止しています。しかし、それだけで変異型CJDの二次感染を完全に阻止できるとは考えにくい状況です。


われわれはこの変異型CJDの二次感染が起きた場合に、コドン129の各遺伝子型ではどれだけ感受性が異なるのか、また病型には違いがみられるのかをヒトプリオン蛋白を発現する遺伝子改変マウスを用いて調べました(文献12)。すると、M/MだけでなくM/VやV/Vの遺伝子型のマウスも変異型CJDに対して予想以上に高い感受性を示すことが明らかになりました。この結果はBSE由来のウシ異常型プリオン蛋白がいったんヒトに感染しヒトプリオン蛋白に適合して変異型CJDとなったら、M/MだけでなくM/VやV/Vの遺伝子型にも病気を起こしやすくなるということを示しています。

さらに、これらのマウスでは病型が大きく異なっており、V/Vの遺伝子型のマウスでは変異型CJDの特徴であるflorid plaqueと呼ばれる斑状の異常型プリオン蛋白の沈着がほとんどみられないことも分かりました。つまり変異型CJDの二次感染がV/Vの遺伝子型の人に起きた場合には、病変をみても変異型CJDなのかそれ以外のプリオン病なのか区別できない可能性が示されました。

そこで、われわれはBSEに対して高い感受性をもつことが知られているウシプリオン蛋白を発現する遺伝子改変マウスを用いて、M/VやV/Vの遺伝子型に感染した変異型CJDを鑑別診断するためのバイオアッセイ法を開発しました。このウシ型マウスはコドン129の遺伝子型にかかわらず変異型CJDには高い感受性を示しましたが、それ以外のプリオン病に対しては感受性を示しませんでした。これらの結果は今後もしM/VやV/Vの遺伝子型の人で変異型CJDが発生しても、この方法を用いれば適切に鑑別診断できることを示しています。

今後発生する可能性があるのは ①BSEから感染し、長い時間を経て発症するM/VやV/Vの遺伝子型の人における変異型CJD、②無症状のキャリア(特にM/VやV/Vの遺伝子型の人)からの輸血などによる変異型CJD二次感染の2つです。二次感染の場合はM/M以外の遺伝子型の人にも病気を起こしやすく、その場合には病変が従来のM/Mの遺伝子型の患者さんとは異なる可能性があります。そのような場合でも、ウシ型マウスを用いたバイオアッセイ法により鑑別診断することができます。



参考文献
  1. The National CJD Research and Surveillance Unit. Creutzfeldt-Jakob disease in the UK. 2013. http://www.cjd.ed.ac.uk/
  2. OIE World organization for Animal Health. Number of cases of BSE reported in the UK. 2013. http://www.oie.int/animal-health-in-the-world/bse-specific-data/
  3. Hilton DA, Ghani AC, Conyers L et al. Prevalence of lymphoreticular prion protein
    accumulation in UK tissue samples. J Pathol. 2004, 203: 733-9.
  4. Health Protection Agency. Summary results of the second national survey of abnormal prion prevalence in archived appendix specimens. Health Protection Report. 2012, 6(32) http://www.hpa.org.uk/hpr/archives/2012/news3212.htm
  5. Kelly C, Sinka K, Gill N et al. Presence of subclinical abnormal prion protein in all PRNP genotypes: Results of a second United Kingdom survey of archived appendix specimens. PRION2013 abstract HD.32
  6. Béringue V, Herzog L, Jaumain E et al. Facilitatedcross-speciestransmission of prions in extraneuraltissue. Science. 2012, 335: 472-5.
  7. Llewelyn CA, Hewitt PE, Knight RSG et al. Possible transmission of variant Creutzfeldt-Jakob disease by blood transfusion. Lancet. 2004, 363: 417-21.
  8. Peden A, Head MW, Ritchie DL et al. Preclinical vCJD after blood transfusion in a PRNP codon 129 heterozygous patient. Lancet. 2004, 264: 527-9.
  9. Wroe SJ, Pal S, Siddique D et al. Clinical presentation and pre-mortem diagnosis of variant Creutzfeldt-Jakob disease associated with blood transfusion: a case report. Lancet. 2006, 368: 2061-7.
  10. Peden A, McCardle L, Head MW et al. Variant CJD infection in the spleen of a neurologically asymptomatic UK adult patient with haemophilia. Haemophilia. 2010, 16: 296-304.
  11. Health Protection Agency. Fourth case of transfusion-associated variant-CJD infection. Health Protection Report. 2007, 1(3) http://www.hpa.org.uk/hpr/archives/2007/hpr0307.pdf
  12. Takeuchi A, Kobayashi A, Ironside JW et al. Characterization of variant Creutzfeldt-Jakob disease prions in prion protein-humanized mice carrying distinct codon 129 genotypes. J Biol Chem. 2013, 288: 21659-66.